大切なものは

第 28 話


ルルーシュの記憶が戻ってから数日が経過したある日、二人は謁見の間にいた。
皇帝を前に跪いているルルーシュは冷静に皇帝の言葉を聞いているように見えたが、スザクには怒りと憎しみを必死に抑えているのが嫌でもわかった。ナナリーが抑えられている以上、ルルーシュは従うしかない。どんな理不尽な命令にも従わなければならない。それは確定事項だ。だからせめて自分の心のうちを皇帝に読ませてなるものかと意地とプライドで平静を保っているのだ。

そして、ルルーシュの監視役であるスザクもまた、その理不尽な命令に付き合わなくてはならなかった。だが、それでいいとスザクは考えていた。この男を止められなかったのは自分だ。悪魔はその目の力を失っても、何をしでかすかわからない。ギアスを失ってもその効果は持続されていると聞いているので、ギアスがまだあった頃に誰かをすでに操っていて、その誰かが今もどこかでルルーシュの命令を待っている可能性も十分考えられた。捕縛されたときのことを考えて、事前にギアスを使い逃げる手段を用意していたら厄介なのだ。だから、そばにいて監視をし、そのすべてを止めてみせる。


二人に与えられた命令は、雪深い北の大地で行われている戦場に赴き、いまだ抵抗し続ける敵国の前線基地を破壊するというものだった。2年に渡る攻防戦を終結するためにラウンズを派遣することになったという。
それはいい。
だが、問題はその内容だった。
謁見の間を出てすぐに、こんなにあからさまに殺しに来るとはなと、ルルーシュは呆れと怒りの声をにじませ舌打ちをすると、ヴァルトシュタインとなにやら話し合いを始めた。今はヴァルトシュタインがいるからお前はシュナイゼルに報告にいけとスザクは部屋から追い出された。それとほぼ同時にスザクは出撃の話を伝え聞いたシュナイゼルに呼び出された。
まるでルルーシュとシュナイゼルの二人が事前に示し合わせていたかのようなタイミングに苦笑するしか無い。おそらくはお互いに相手に行動を読んだ結果なのだろう。考えるだけ無駄だとスザクは足早にシュナイゼルの元を訪れた。
そこにはシュナイゼルとカノンだけではなく見知らぬブリタニア軍人が二人いた。
今回の出撃は、シュナイゼルにも想定外らしく、何か裏が有るようだから十分注意するようにと言ってきた。そしてルルーシュが出した結論同様、シュナイゼルもまた出撃の条件があまりにもひどく、死ねと言っているようなものだといい、できるだけの手を打つといってくれた。
その手に一つとして、スザクの部下にと二人の若い騎士を紹介された。
命名は好きにと言われたので、コノエナイツとした。渡された資料を見る限り、二人の能力は思った以上に高く、KMFの騎乗能力も申し分ない。その血筋も確かで、シュナイゼルが選ぶだけのことはあった。
だが、今回の作戦内容を聞かされた部下二人は顔色が悪い。
それはそうだろう。
敵を殲滅してこいという命令自体は問題はない。
ただそれは、十分な下地があってのことだ。
この作戦は極秘のもので、少数精鋭で向かえという。
そのため、行くのはスザクとジュリアスのみだと言われている。
部下の同行はなしで、だ。
空路ではなく陸路を使い、ランスロットだけで制圧しろ。
それが、命令だった。
ランスロット以外の戦力がないだけではなく、キャメロットを、いや、ロイドとセシルさえ従軍させることは不可という無茶な内容に、ルルーシュとシュナイゼルはこれから抗議することになるようだ。
ブリタニア軍が2年間攻めきれない場所に、たった二人で奇襲など死ににいくようなものだと。だからシュナイゼルは急遽スザクに直属の部下を用意し、ロイドとセシルの二人と部下だけでもと進言するつもりなのだ。
正直な話をすると、スザクは部下を連れての戦闘経験はない。
今までずっと、1騎で特攻していたのだ。
それに戦力だけで言えばランスロットがあれば十分だとスザクは考えていた。
だが、ロイドとセシルがいないのは戦力以上に問題だった。
ルルーシュの体のこともあるから信頼できる人間を連れていきたいし、ランスロットの整備をスザク独りでするのは無理がある。他の整備員を連れて行く許可も下りなかった以上、データすら撮ることも難しい。だからロイドとセシルが無理だとしても整備ができる人間を連れて行かなければ。陸路で行く場合、KMF1騎につきトレーラーは最低でも1台必要になる。部下二人分を考えるなら3台だ。最初にこの数を提示し、それでも駄目だと言われえれば数を削り、最低人数で行くのならランスロットに詳しいロイドとセシルだけでもという作戦らしい。

空路なら二人で強行することも可能かもしれない。最速で動けば目的地まで1日とかからない。だが陸路では移動だけで数日かかる。それだけ敵に狙われる危険も大きくなるし、ルルーシュの体調も長旅ならどうなるかわからない。誰がどう見ても、狙ってください。殺してくださいと言っているようなものだ。
なぜ皇帝はこんな無茶な作戦の許可を出したのだろう。
ルルーシュは、皇帝が母を守らなかったといっていた。
他の后妃に疎んじられていたのを知っていたのにと。
だが、ここまであからさまに仕掛けてきているのを見れば、皇帝が暗殺に関わっていたと考えるほうが自然なのではないだろうか?ルルーシュがその可能性に気づかないはずがない。気づいていても気づかないふりをしているのか。父が母を殺したと思いたくないのだろうか。もしかしたら暗殺事件前まで、幼いルルーシュは皇帝を尊敬していたのかもしれない。
尊敬する父親が、唯一ソレが出来る立場にいる。だから父さんさえ動いてくれれば・・・
脳が揺さぶられるような気持ちの悪い感覚とともに、幼かった頃のあの光景が脳裏に蘇ってきた。尊敬する父親。国で一番偉い、戦争に関する権限を持った父に刃を向けたあの日の光景。頭が痛い。吐き気がする。
今この感情に飲まれてはいけないと、スザクは無意識ではあるが湧き出た感情に蓋をした。

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